Super Short Story

鉛筆

Written by 翔矢


この授業中の教室内で、多くの生徒がX=何たらかんたらと書かれた公式を必死で頭に叩き込もうとする中で、一人だけつまらなそうに鉛筆を手の上でくるくると躍らせているその少女は、惣流・アスカ・ラングレーその人。
ただでさえ元々の基礎頭脳が同年代ではずば抜けているのに、家で抜かりなく自習をしてきたアスカは授業も上の空でいつも通り考え事に浸る。


んー…ネットとか見てると生きてるみたいに鉛筆を手の上で動かす人いるけど、アレってどうやるのかしら?
………だー!もうっ!やっぱ無理!どう頑張っても引っ掛かるじゃないのよ?!諦めようかな…?
んーん、駄目よ、それだけは。
アタシは生まれた時から何でも手に入れてきたもの。
美貌も、頭脳も、運動神経も!アタシに手に入らない物なんて無いのよっ!
だから、このペン回しも必ずやマスターして見せる!


そんなどうでもいい様な気もする決心をしたアスカは再びペン回しを再開するが、余りにも授業を聞こうとしないアスカを見かねたこの第壱中学校の数学担当教師であり、それと同時にアスカの両親と知り合いだった縁でアスカの事を幼い頃から知っているある種の姉のような存在である葛城ミサトが、アスカに教科書の問題を解くよう要請した。

「アスカ、今やってる所の答えをお願い」

だが、ペン回しに集中していたアスカからしてみれば、いくら頭が良くてもどの問題の答えを言えと言われてるのか分からないわけで、見るからにしまった!と言った表情を顔一杯に浮かべる。
それを見たミサトは意地悪くにやけ、頭の中では答えの言えないアスカをどうやってからかおうかと考えていたのだが、困るアスカに、隣の席に座っていたシンジがさり気なく助け舟を出した。

「ほら、アスカ。これだよ、この問い5番の問題」

そう囁かれたアスカは、小声でありがとっ、と言うとしっかりとした口調で問題の答えを答える。
勿論、どこにも非の打ち所の無い完璧な答え。
それに対してミサトは心の中で、シンちゃんってばアスカには甘いんだから、などと思いつつ、正答をしたアスカに何か言えるわけもなく、ただ一言だけ告げる。

「ありがとう、アスカ。座っていいわ」

ほっと一息ついて席に着いたアスカは、再度シンジに礼を述べる。

「ありがとう、シンジ。助かったわ」

それに対してシンジはにっこりと微笑みながらアスカに返す。

「ううん。気にしないでいいよ」


と、突然、アスカは顔を真っ赤にしてふいっ、とそっぽを向いてしまう。
それを見たシンジは、どうしたんだろ?と思いながらも、再び黒板に描写され始めた難解な問題に取り組むため、すぐにノートを書き取る作業へと戻った。
一方アスカは、再びペン回しを再開するも、どうも顔が赤く火照ったように見える。
その訳はどうやらシンジのようで………


………!あー、もう!
何なのよっ!急にあの"にこっ"は反則よぉ。
あんなの、急に見せられたどうしようも無くなっちゃうじゃないの…


そう思いながらアスカは、器用な事にペン回しをしながらにして、隣の席で一生懸命書き取りを続けるシンジを横目で見やる。


シンジ…アタシのシンジ………
て言っても、まだ"アタシの"じゃないのよねぇ…
今まで、欲しい物なら手に入れて来たのに、十年以上もお隣さんやってて未だ手に入らないなんて。
ホント、なんでどうでもいいもの男は星の数ほど言い寄ってくるのに、一番望む人からの告白は手に入らないのかしらね。
…はぁ、我ながら考えてて悲しくなってきた。


自分で考えてて悲しくなってきたアスカは、無造作に机の上にクタリ、と寝そべるが、その拍子に今まで回していたことすらすっかりと忘れていた鉛筆をうっかりと落としてしまった。


あっ!いけない…!


そう思い、床に落ちた鉛筆を拾おうとして手を目一杯に伸ばすが、これが中々届きそうで届かない。


ん…しょ…あと、ちょっとっ!


そんなアスカの手に、上から別の誰かの手が重なる。
誰の手だか分からないその手に訝しみながらアスカが顔を上げると、そこにはまたもアスカの惚れる要素の一つである微笑をしっかり顔に浮かべながら、アスカの落とした鉛筆を差し出すシンジ。
だがしかし、アスカからしてみれば先ほどから殆ど間をおかずしてまたもや微笑まれ、尚且つ自分の鉛筆を差し出すその手と、自分の手が一瞬でも触れ合った事を考えると、それだけで尋常じゃない程に真っ赤にのぼせ上がり、礼もまともに言えずに鉛筆を―なかば奪うように―貰い受ける。


や…うそ………シンジの手と、アタシの手、今、絶対、アレ、よね?触れた、よね?
も、だめっ!耐えらんない!アタシの手、もう、洗えないっ!
あ、ていうか、ほら、この鉛筆も、今、シンジの手が、ギュッて握って…!
…!は、離さなきゃ!せっかくシンジの、シンジの手が握ってたら、またアタシが握ってたらっ上書きされちゃう!
でも、やだ!離したくない、もっと、シンジが触ってた鉛筆触ってたい…よぉ!
あぁ、でも離さないと、上書きされちゃうしっ!どうすればいいのよぉ…


結局、アスカはその授業の間中ずっと、鉛筆を離すか離さないか考えている事となったのであった。


お・わ・り

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あとがき

SuperShortStoryの第一弾。
こちらは、読んで字の如く、"超短い話"です。
ちなみに、この第一弾は、最近始めたリクエストで早速ソレックスさんから頂いた、
小物
をキーワードに書いたもの。
小物、からこんなもんが唐突に思い浮かび、十数分で書き上げました笑
ではでは、リクエストどーもでした♪
みなさんも何かしらネタを提供して頂けると嬉しいです。

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