「ね、シンジー、見てよこれ」
ソファーにゆったりと腰掛け、くつろぎながらテレビを見ていたアスカが、何やら興味深いものが映ったのか、シンジを呼んだ。
呼ばれたシンジは、夕飯を作る手を止め、一度手を洗うと、エプロンの裾で濡れた手を拭きながら、ソファの後ろまで行きテレビを覗くと、感嘆の声を挙げる。
「うわぁ………綺麗だね」
「でしょ?なんて言うの、この花?」
「確か、サクラだっけな。セカンドインパクトが起こる前は、大体四月の初めにに咲いてたって聞いたよ」
「そうなの?」
「うん。たぶん、サードインパクトで四季が戻って来たから、また咲いたんだろうね」
「…ね、シンジ、今度の日曜、あのサクラって花見に行かない?」
「…いいね、それ!」
そう話が纏まりかけた時、何処からかミサトが現れ、会話に加わる。
「なになに、何の話?」
「あ、ミサトさん。今、アスカとサクラ見に行こうかって話してたんですよ」
「あ、それだったらいい場所あるわよ!」
「どこですか?」
「ネルフよ」
「ネルフが?」
「そ、ネルフの公園一つに、大掛かりな桜並木が作ってあるのがあるのよ。今まで咲かなかったけど、今年は咲いたって加持君言ってたし、近くていいんじゃない?」
「そうですね。ありがとうございます、ミサトさん」
桜―サクラ―
written by 翔矢
「…で?なんでネルフ職員どころか、壱中3−A数人を含めての大騒ぎになってんの?」
そう言うアスカのこめかみは見事なまでに引き攣り、怒りの心情を物の見事に表していた。
それに対し、ミサトはアスカの怒りなんかまったくもって気にせずに答える。
「ん?だって数十年ぶりの桜よ?そりゃネルフ職員もこんな絶好のお花見の機会を逃すわけないじゃない」
「だからって、なんで同じ日にちなのよ!」
「もう次の休みじゃないと散っちゃうじゃない。…てゆーか、アスカなんでそんな怒ってんの?…あ、もしやシンちゃんと二人きりが良かったとか?」
やけににやけながら、問いかけたミサトは、どうやら事前からアスカをからかう事も目的だったようで。
アスカは、それにまんまと乗っかって、見事なまでに、照れと怒りをまぜこぜにし、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「バ、バッカじゃないの?!シ、シ、シンジと二人きりなんて誰が望むもんですか!ただ、アタシは静かにサクラを見たかっただけよ!!」
そう怒鳴ったアスカを周りで見てた人々は、恐らく満場一致でアスカがシンジと二人きりで桜を見たかったのだと思っていた。
唯一、碇シンジ当人を除いて。
まぁ、兎にも角にも、集まってしまった人々を追い返すわけにもいかず、シンジから「みんなでワイワイやるのも楽しいよ、きっと」と宥められ、アスカもしぶしぶ納得すると、すぐに気持ちを切り替えて、大宴会に積極的に加わっていった。
「ほら加持君、もっと飲みなさいよ!」
「いや、もう俺飲めないから…っっ!葛城!ビールをかけるな!」
「もう、ゲンドウさん、そんな飲んで大丈夫なんですか?」
「ふっ、問題ないよ…ユイ」
「…問題大有りですわね?そんっなに私の新発明品の威力を味わいたいのなら、味あわせてあげますよ…ふふふ」
「…はっ、それだけは勘弁してくれ、リツコ君!」
「レイ、そんなに飲んで大丈夫なのかい?」
「………カヲル、もっと持ってきて」
「持ってくるからさ………そのA・Tフィールドを閉まってくれないかい?」
「トウジ、美味しい?」
「ヒカリの作ったもんや、まずいわけあらへんやろ」
「シゲル君、あーん」
「あーん…美味しいよ、マヤちゃん」
「日向さん…」
「何だい、相田君?」
「一緒に飲んでくれません?」
「…そうだね、そうしようか、はは」
「君達、私も混ぜてはくれんかね?」
「いいですよ、副所長…」
何処か哀愁ただよう、三人組の間に友情が生まれた瞬間。
「ふぅ………なんか、疲れたわね」
大宴会の外に出たアスカは、ため息を一つ付くと、小さくつぶやいた。
そこに、丁度時を同じくしてなんとか酔っ払いの相手から逃げ出してきたシンジが、アスカの背後から声を掛ける。
「アスカ、大丈夫?」
「ん…なんかみんな凄いはしゃぎようね」
「まあ…これはこれでいいんじゃないのかな?みんな楽しんでるし…ちょっと疲れたけどね」
そう話してるアスカとシンジの顔には、何処となく疲れの色が浮かんでいる。
「別に、ダメとは言って無いけどね。みんなサクラ見ることなんてもう忘れてるっぽいけど………」
「…もしかして、もっとゆっくりサクラ見たかったりした?」
「………ちょっとだけ、ね」
アスカの、少しばかり残念そうな声を聞いたシンジは、ほんの少しの間黙ってると、何かを思い付いたのか、口を開く。
「………アスカ、あっちの方なら静かだし、移動しない?」
シンジの申し入れに、アスカはいつも通りと言うか何と言うか、最初は否定の言葉ながら、いかにもしぶしぶと言った感じで了承する。
「だ、誰がアンタなんかと二人きりで!…でも、アンタがどうしてもって言うなら」
しかし、もうそんなアスカの態度にはすっかり慣れっこになっているシンジは、さも自分が行きたいかのようにアスカにお願いをする。
「うん、どうしても行きたいんだ。だから、ね?」
「ふん、じゃ、じゃあとっとと行きましょう」
そして、公園の端にある、一際見事に咲き誇るサクラを目指して歩むアスカのは、満面の笑みを浮かべつつ、急ぎ足で歩いていった。
目的のサクラの下まで来た二人は、太くがっしりとしたサクラの幹に寄り掛かるように腰を下ろし、その位置から上を見上げると、あまりの美しさに二人揃って、ほぅ…と溜め息を吐く。
「すごい…わねぇ」
「うん…すごい、綺麗だ」
そうしてただただ余りの美しさに見とれていた二人だが、シンジが少し間を空けて座っているアスカに気付かれぬように、そぅ…っと立ち上がると、音も立てずにその場を立ち去った。
およそ、二十分ほど上を見上げていたアスカは、そろそろ首が凝り固まり痛くなって来たので、ほぐすために首を戻すと、隣にいたはずのシンジがいなくなっているのに気付いた。
「…シンジ?」
そう呼び掛けると、アスカは急に不安そうな表情になると、キョロキョロと辺りを見回すが、シンジの姿は見つからない。
そうすると、不安そうな表情は一層深まり、更に激しく辺りを見回す。
…と、シンジが後ろから声を掛ける。
「…アスカ?どうしたの、そんなに首回して?」
急に後ろから声を掛けられたアスカは、酷く驚き、まさか自分がシンジの事を必死で探してたなんて言えるはずもなく、精一杯いつも通りの表情を取り繕って、つっけんどんに答えを返す。
「べ、別に!上見すぎて首凝っちゃったからほぐしてただけよ!!」
なぜそんな必死に状況を説明するのか分からないシンジは、首を傾げるが、ふと何かを思い出したようにアスカに話しかける。
「あ、それよりさ、ちょっと目、瞑っててよ」
「は?なんでよ?」
急なシンジの願いに、アスカはワケが分からないと言った顔で聞くが、シンジならざぬ強気な感じ「いいからいいから」と言われた日には従うしか無く、大人しく目を瞑る。
そして数秒後、アスカは首になにかが、ふわり…と掛かるのを感じると同時に、シンジが声を掛ける。
「もういいよ、目開けても」
そう言われたアスカが目を開けると、自分の首にサクラの花弁を集めて作ったネックレスが掛かっているのに驚きの声を上げる。
「こ、これ、どうしたの?!」
「いや、あんまりアスカがサクラに見とれてたからその間にと思ったんだけど…どう?」
シンジは照れたように頭を掻きながらアスカの反応を伺う。
「…ふ、ふん、ア、アンタにしては良くやったわ」
今では、顔をサクラ色に染めているアスカのその言葉が、実際の意味とは違い、かなりの褒め言葉だと知っているシンジは、嬉しそうにはにかむ。
「気に入ってくれたみたいで良かった」
「べ、別に誰も気に入ったなんて言ってないじゃないのよ!」
そう言うアスカだが、顔は染めるわ声は上ずるわでは全然効果は無く、シンジは気にせずに、また先ほどの場所に腰を下ろす。
そして、アスカもシンジが座ったのを見て、隣に座る。
それからしばらくは二人とも口を開かず、シンジはサクラをぼんやりと眺めながら、アスカは何か考え事をしながら、ただただ穏やかに時が過ぎていく。
と、アスカは、急にシンジとの距離を詰めると、シンジの肩に自分の頭を乗せた。
それに驚くのはシンジ。急なアスカの言葉に、見事顔を真っ赤に染め上げると、あたふたと言葉にならない声を出す。
「いや、え?あの、アスカ?あの、その…?!」
そんな反応をされては、プライドも恥ずかしさも全て忘れて行動に移したアスカは、急に恥ずかしくなる。
「う、うっさいわね!そんな変な反応しないでよ!このネックレスのお礼なんだから…!」
「う、うん…でも」
「い、いいから静かにしなさい!…こっちまで恥ずかしいじゃないのよ」
そうして、顔を真っ赤にした二人は、そのままの体勢で、互いに自分の心臓の鼓動が元に戻るのを待つ。
やがて、何とか落ち着きを取り戻した所で、今度はシンジが何かを決心したかのように、ゆっくりと口を開く。
「あの、アスカ…」
シンジの重々しい口調から、何かしら重大な事だと感づいたアスカは、またも心臓が高鳴るのを必死に抑え、返事を返す。
「…な、なによ」
それからまた短く沈黙が流れるが、シンジは一つ小さく息を吸い込むと、小さく、だがはっきりと自分の思いを詰めた言葉を吐き出した。
「…好き、です」
正に予想通りの言葉を聞いたアスカだが、いわずもがなの答えが返ってくるのが分かっているのに、シンジに問いかける。
「だ、誰がよ」
だが、まさかそんな事を聞かれるとは思って無かったシンジは、もう先ほどのはっきりした声はいずこかに消え去り、上ずった声で返事を返す。
「だ、誰がってそりゃ…言わないでも分かるだろ…!」
「い、いいから言いなさいよ!」
どうしても、シンジの口から好きな人の名前をしっかりと聞き出したいアスカは、真剣な表情で、シンジに詰め寄る。
そして、シンジもそんな気持ちを察したのか、一回、二回と短く息を吸い呼吸を整えると、ぼそりと呟いた。
「アスカが、アスカの事が…好き、です」
「き、聞こえないわよ!」
そう言われたシンジは、深く息を吸うと、今度ははっきりと口にした。
「アスカが、アスカが…好きです!」
それを聞いたアスカは、一気に顔を綻ばせると、それを隠すようにシンジの方に顔を埋め、くぐもった声でシンジに話しかける。
「い、今アタシの顔見たらアンタのことぶっ飛ばすからね!」
「う、うん」
そうしたまましばらく待ち、アスカは自分の顔がようやくまた引き締まったのを感じると、ようやく顔を上げた。
そして、先ほどシンジがしていたみたいに何度か息を吸い込み、心の準備を整えると、口を開く。
「アタシも、アタシもシンジの事…好き」
その言葉に今度はシンジが顔を綻ばせると、アスカにその見っとも無い顔を見られないように、素早くそっぽを向くが、アスカの方が僅かに素早くシンジの顔を覗き込む。
「あは、見っとも無い顔」
「ちょ、何で態々覗き込むのさ?!自分は見るなって言ってたくせに!」
「ふん、アタシはいいのよ」
「いや、僕が良くないから。こんな顔見られるの恥ずかしいよ!」
そう言うと、シンジは急にアスカから逃げるように走り出し、アスカもそれを追っていく。
「ちょっと!急に走り出すなんてズルいわよ!」
「別にズルくないよ。油断してたアスカが悪いんだろ!」
「言ったわねぇ…!」
アスカは、そう呟いた瞬間、一気にギアチェンジしてスピードを上げ、ぐんぐんシンジとの差を詰め、ついには追いつくと、シンジの肩に手をかけて柔らかい草地に引きずり倒す。そして、そのまま二人揃って寝転がり、荒くなった呼吸を整えながら会話する。
「はぁ、はぁ、はぁ…ふん、やっぱりアンタの足じゃアタシには適わないわね」
「はぁ、はぁ、やっぱ適わないか…でもまぁ、顔も直ったしいいかな」
「アタシは良くないわよ。アンタの顔見て笑ってやるつもりだったのにもう元通りだし、無駄に疲れたし」
「そうだね、僕も疲れた」
そう言った二人は、今しがたの追いかけっこの疲労に、春の柔らかく暖かい日差しが加わり、更にはようやくもって自分の想いを伝えられ、見事それが成就した安心感まで重なり、心地よい眠りへ、ゆっくりと落ちていった。
あっとがきー
久々の短編。去年の夏以来だと思うw
ついでに、この話、学校行く途中の桜見てたら、頭の中で登場人物が勝手に宴会始めだしたから、何となくその模様を書きつつ、LASにしていきました。
思い付きで書いたお陰で、なんか展開速くないか?とか、どんだけ公園広いのかな?とか、うはははは、とか(ぇ
よーするに、色々がアレでアレなアレなんです。
そう、リーダーのたけしです(何
てことで、これをあとがきの言葉とさせていただきます(意味不だけどね)
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