「ねぇ、ところでシンジ君?」

「はぁ、なんですか?」

「今から私が言う事をよく聞いてね」

「…いいですよ」

何の話があるのか…、それが分からないシンジは、頭に?マークを浮かべつつも了承する。
そして…

「ふぅ………ジャーン、ケーン、ポン!!」

掛け声と同時に、ミサトは鬼の形相で上げた腕を振り下ろした。





全ての曜日の、掃除当番と食事当番を記したカレンダーを、ジャンケンしながらマス埋めしていたミサトが、ついに最後の一マスに名前を書き込み終えた。

「さて、と…これで公平に決めた生活当番表も出来上がったし、シンジ君同居祝いと使徒戦初勝利祝いを兼ねて、乾杯しましょうか」

「……………」

「あっれー?シンジ君どうしてそんなに煮え切らない顔してんのよ」

「いや、なんでもないです。えぇ、なんでも」

言葉に何か意味が隠されている気がしなくもないシンジの言い方は、もちろん先程のジャンケン。
確かに、どちらかというと顔の迫力で勝負を付けた感じのするミサトだが、ミサトに悪気は一切無い。

「じゃあ、乾杯しましょ」

「…そうですね」

まだ煮え切らない気がしなくもないシンジの声だが、どうやら取り合えず気を取り直す事にしたようで、

「じゃ、かんぱーい!」

ミサトの第一声に伴い、グラスがぶつかり合う、カチン…という音が鳴る。





談笑を交えながらのお祝いは進み、いくつかの皿が空になってきた頃。

「あ、そうだ…」

と、ミサトが何かをふいに思い出す。

「シンジ君、今回の戦いで特に怪我も無かったでしょ?だから、すぐに転校手続きをして、学校に行ってもらおうかと思うんだけど、大丈夫?」

「はい、僕は大丈夫ですよ」

「じゃあ、学校行ったら、友達たくさん作ってらっしゃい」

「たくさん…ですか?」

「そうよ…ま、無理して来ないでもいいけどね。友達はいた方が楽しいでしょ」

「まぁ、そうですね。頑張ります」

みなが幸せになるために

第二話『シンジ学校へ』      by翔矢


「じゃあ、行ってきます」

「んー、行ってらっしゃい」

「ちゃんと朝ご飯食べてくださいよ。簡単な物ですけど、机の上に置いときましたから」

「分かってるって」

「じゃあ…」

シンジは、取り合えず言うべき事は言ったので、学校へと向かう。
そして、シンジが出て行った後、ミサトは少しの間ボー…っとしていたが、十分ほどしてようやくのそのそと動き始め、洗面所で顔を洗い、歯を磨くと、リビングへと向かう。
食卓の上には、まだ温かさの残る食事がきちんとラップを掛けて置いてある。


シンちゃんってこんな事も出来るのねぇ…これからは安心だわ。


何か保護者と庇護者の立場が逆転してる気のする事を思いつつ、食事を進めていたミサトだが、ふと何かを思い出したように立ち上がると、食パンを銜えたまま自分部屋へ向かい、机の上から“サードチルドレン監督日誌”と書かれたノートとペンを手に取ると、再び食卓に戻り、ノートを開き、ペンを走らせる。


ん…と、今日は…月の…日で、天気は快晴、と。
取り合えず…サードチルドレンは学校へ、まずはこれだけかしらね。


一行だけ書いてミサトがペンを置いた時、急に玄関のドアが開くと、シンジの声が聞こえてくる。

「忘れ物したんで取りにきました」

言いながらシンジは靴を脱いで、リビングに近づいて来る。まさかこんなノートを書いてる事を堂々と見せたい訳もないミサトは、焦る。
そして、その焦りのお陰で何気なく部屋に戻ろうとした所で、机の足につまづき、盛大な音を立てつつ転んだ。

「いっ…つぅ」

「ミサトさん…何をしてるんですか?慌てて」

「べ、べ、別に何もしてないわよ?!」

ミサトは動転しつつも必死にノートを隠そうとするが、それにシンジが目聡く気付く。

「何を隠そうとしてるんですか…?」

「か、隠す?何の事からしら?」

「何を…隠したんですか?僕に見られちゃ都合の悪い物なんですか?」

「そ、そーいうワケじゃないわよ」

そう言いつつミサトは、ずるずるとノートを後ろで持ちながら後退する。

「じゃあ、見せてくださいよ」

シンジは下がるミサトに詰め寄っていく。
やがてミサトは壁にぶつかり、逃げ場が無くなる。
そして………

「サードチルドレン監督日誌…?」

「あは、あははははは」

ミサトは、乾いた笑い声を出しつつ、言い訳をする。

「そ、そのぉ…べ、別にそういうワケじゃなくてね、だから、えーと…?」

どもりながらもなんとか上手い言い訳を考えるミサトを、シンジはたった一言で遮った。

「正直に答えてください…」

そう言うシンジの顔が、あまりに真剣で、ミサトは乾いた笑いをピタリ…と、止める。

「僕と同居することにしたのは…何でですか?」

「……………」

「答えて…下さい」

観念したようにミサトが口を開く。

「半分は…仕事、監視がしやすいからよ」

「じゃあ、もう半分は?」

「それは…家族が欲しかったから、よ。ずっと一人だったから、誰かが家にいると楽しいと思ったから」

「分かりました…」

シンジの言葉の続きが気になり、ミサトは緊張のせいで口に溜まった唾を、飲み込む。
それから、静かな時が僅かに流れ、シンジが閉じた口を開いた。

「じゃあ、これから、家族として、よろしくお願いします」

そのシンジの答えに拍子抜けしたミサトは、ポカン…と、口を開く。

「だって、家族にしてくれようとしたんですよね?じゃあ、それでいいです」

「でも、私は監視…をはしようとしてたのよ?」

「いいですよ、そんなの。それより、これからは隠し事したり嘘付いたりしないで下さい。そっちの方が…辛いです」

「…分かったわ、それじゃあ…よろしくね、シンジ君」

「はい…じゃあ、行ってきます」

そういい残してシンジは忘れ物のお弁当を手に取ると、学校に遅刻しないよう走って出て行く。
一方、残されたミサトは、監督日誌をゴミ箱に放り込むと、NERVへ出勤する身支度を始めたのであった。





所変わって、第三新東京市立第壱中学校の2-A教室。

朝のホームルーム開始のチャイムが鳴ると、教室のドアが開き担任の老教師が入ってくるが、クラス中のざわつきは止まずに、クラス委員長であるヒカリの、静かにしなさい!という声が響き、ようやくクラスには静寂が訪れ、教壇に立った担任がしゃべり始める。

「え〜、今日は、転校生を紹介します。碇君、入って来なさい」

そう担任が言うと、再びドアが開き、シンジが入って来て、担任の隣に立つ。

「じゃあ、自己紹介をお願いします」

そう担任に促されてシンジは、簡単な自己紹介を始める。

「初めまして、碇シンジです。先日、こっちに引っ越してきたばかりなんで、分からない事もあると思いますが、これからよろしくお願いします」

「はい、よろしい。みなさん、仲良くしてあげて下さいね」

「あの、何処に座ればいいですか?」

「空いてる所ならどこでもいいですよ。では、授業を始めます」

一時間目が数学なので、担任はそのまま授業に入り、シンジも適当な所に座った。





数学が始まって十分ほど経った頃。既に授業は担任の昔話へと姿を変えており、生徒達も思い思いに雑談に耽っている。
その中、一部のグループでは、何故疎開が始まった今頃転校生が?と、いう話題が始まり、先日の戦闘の件も有り、シンジがエヴァのパイロットでは?との結論に辿り着く。
そして、意を決した女子が、シンジに直接尋ねる。

「ねえ、君があのロボットのパイロットだって…本当?」

そう聞いてくる女子の目は期待で爛々と輝いており、いつの間にかクラス中がシンジの答えに耳を傾けている中、シンジは口を開いた。

「本当…だけど」

シンジが答えた瞬間、シンジの周りには一斉に人が押し掛け、矢継ぎ早に質問をする。
その一つ一つにシンジが何とか答えていく。
しかし、その中で唯一人、ジャージを着た少年、鈴原トウジだけは、円の外からじっとシンジを睨んでいた。





キーンコーンカーンコーン…と、昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴ると、各自が思い思いに持ってきた弁当を広げる。
その頃シンジは人目の少ない場所へと、トウジに呼び出されていた。

「君の妹が…怪我?」

「せや、誰のせいやと思う?お前のせいや!お前が暴れ回ったせいでなぁ、ビルの破片の下敷きになって、今入院しとんのや!どないしてくれるん!?」

それを聞いたシンジの顔は、急に歪む。

「………それ、本当なの?」

「ワイが嘘付いてなんになるんや!」

「………ごめん」

「誤って済む問題かぁ!」

トウジは、そう叫んだ瞬間に、シンジに殴りかかり、その拳を左頬に受けたシンジは吹っ飛ばされる。

「っっっ……!!」

「ワイの妹が受けた痛みはこんなもんやないんやで!次からはよう足元見て戦えや!」

そう言い残してトウジはケンスケと共にその場を立ち去り、残されたシンジはただただ、ぼぅっ…とその場に座り込んでいるだけで、制服のポケットの中で、非常召集が掛かった事を持ち主に伝えようと震える携帯の音が良く響いていた。





出撃準備の進められる初号機の中でシンジは一人考え込んでいた。


僕は、何の為に一度経験したこの世界に戻ってきたんだ?
起きうる事を防ぐためじゃなかったのか?なのに、またトウジの妹を怪我させてしまって…どうにかすれば怪我させないで済んだかもしれない事なのに。
僕は、僕は、この先本当に結末を変える事なんて出来るのか?友達の妹すら守れないで、世界を守る事なんて…

時を遡って来て、初めての身の回りの人の怪我。その出来事にシンジは悩み、悔やみ、出口が見付けられない。そして、弱気になって行く。
そのシンジの思考に、ノイズが入った。

「シンジ君?シンジ君!…聞こえてるの?!」

「あ…はい、なんですか、ミサトさん」

「どうしたの、シンジ君?集中しないと今度はあなたがやられるわよ」

「…すいません」

「…なにか、あったの?」

ミサトの問い掛けにシンジは少し黙るが、やがて口を開く。

「同じクラスの人の、妹が、前の戦闘で怪我をしたんです。僕は、みんなを守るために戦ってたはずなのに…それなのに、僕が戦って壊したビルの破片で怪我をさせたんです」

「このサイズでの戦いよ、多少の怪我人は仕方無いわ」

「そんな!守るために戦って怪我をさせて、戦う意味がないじゃないですか!」

「それで、悩んでどうなるのよ!悩んで、戦いにミスが出たら、余計に大勢の怪我人が出るのよ?!」

「でも、でも…!」

「うるさい!今は目の前の敵に集中しなさい!そして、被害を最小限に抑えて、その後にいくらでも悩みなさい!」

「………分かりました、発進させて下さい」

そして初号機が地上へと射出される直前、ミサトが言い忘れた事を思い出したかのように、一言シンジに叫ぶ。

「悩み事には私も付き合ってあげるから、だから絶対に帰って来るのよ、シンジ君!」

「ミサトさん………」

ミサトの言葉に、心の中が少しだけ晴れた感をシンジは感じつつ、戦闘へと向かった。





「ちぇ、まただよ」

ケンスケは、愛用のビデオカメラでテレビを見ながらぼやく。

「なにがや?」

そう、尋ねて来たトウジに、ビデオカメラを見せながら、ぶつぶつと愚痴を零す。

「ほら、これ見てよ!」

「なんや?また文字だけなんかいな」

「報道規制ってやつさ。僕達にはなーんにも見せてくれないの。あーあ、一度でいいから見てみたいなぁ」

「見たいって、上のドンパチをかいな?」

「しっ!声がでかい!」

「止めといた方がええんちゃうか?死んでまうで?」

「ここにいたって分かんないよ。どうせ死ぬなら見てから死にたい」

「あほ!なんのためのネルフや」

「でも、ネルフの決戦兵器って一体なにさ?あのロボットだろ」

「せやな」

「そのロボットのパイロットをお前が殴っただろ」

「せ、せやな」

「もしかしたら、機嫌でも損ねて前みたいに守ってくれないかもよ?だから、お前には戦いを見届ける義務があると思うんだけどなぁ」

「うっ………しゃーない、なんや言い包められた感じがせーへんでも無いけど外、出るか」

「そうこなくっちゃ」

そして話を纏めた二人はシェルターの外へと出て行った。





やがて地上にその姿を現たエヴァ初号機。
その時を、少し前から山の上で待っていたケンスケは、歓喜と驚きの声と共にビデオカメラを回し続ける。
しかし、前回と同じこの状況なのに、シンジは二人がいる事を忘れていたために、少々の苦労を強いられるのは少し後の話。





あいつは…確かあの鞭のような手が凄い速さで、他には何の取柄も無い使徒だよな。
てことは、あの鞭さえ気を付けてコアを狙えば簡単に済む…
よし!…

前回戦った時の事を思い出しながら、戦い方を決めると、隠れていたビルの物陰から飛び出す…が、
前回とは違いすぐにビルの陰から飛び出さなかったために、鼻の先ほどに迫っていた使徒の鞭がすぐに初号機に向かって来る。
それを、ライフルを盾にしながら横に跳び、何とか避けるも、肝心の武器は真っ二つになり使い物にならなくなる。

「っっっ!ライフルが!!」

その状況を見ていたミサトはすぐに次の武器を取りにいくよう指示を出す。

「シンジ君!早く次の武器を!」

「はい!」

一言だけの返事を返したシンジは、武器を格納してあるビルに向かって走り出すが、使徒がそれを許そうとせずに、背を向けている初号機の足に鞭を巻きつけ、ビルまであと僅かの所で足を止める。

「…くそ!離せ!」

しかし、離せと言われて離す訳も無く、ビルから遠ざけようと思いっきり初号機を投げ飛ばすが、その場所が悪かった。ケンスケとトウジが戦いを見物している山の方に初号機は迫っていく。

「おい、ケンスケ!逃げなあかんとちゃうか?!」

「あ、ああ!」

しかし、二人とも迫ってくる初号機の迫力に圧倒されて足が竦み、その場から動く事が出来ない。
そして、初号機は、二人を指の間にした格好で叩き付けられる。

くぅ…ケーブル、は?…よし、今回は切れてないな。

シンジは呻きながらも、電源がしっかりと供給されてるか確認すると、立ち上がろうとするが、その時に左手の指の間に倒れてる二人を視認し、安易に動けなくなる。
そして、その様子は発令所にも伝わっていた。

「シンジ君のクラスメイト?!」

「なぜ、こんな所に!」

その時、動かない初号機に迫ってきていた使徒が、丁度初号機の真上に到達して鞭を振り上げ、振り下ろした。
しかし、それが初号機の体に到達する前に、両手でしっかりと受け止める。

「な、なんであいつは受け止めたまま動かないんや?!」

「僕たちが、僕たちが此処にいるから、だから自由に動けないんだよ!」

ケンスケとトウジは焦るが、眼前の恐怖で足が竦み、逃げる所では無い。
そうしてる内にも、初号機の手の平を包む装甲は溶かされて行き、シンジはなるべく早くの決断を迫られる。

くそ!くそ!!どうすればいいんだよ?!どうすれば、二人を押し潰さないで使徒を倒せるんだよ?!
……………二人をプラグ内に入れるか?けど、僕の独断でそんな事…!

焦っていたシンジに、発令所からミサトが声を掛ける。

「シンジ君!二人を操縦席にへ!その後は戦況をみて判断!」

しかし、その指示にはリツコが猛反対をする。

「許可の無い民間人をエントリープラグに乗せられると思っているの?!」

だが、ミサトは毅然とした態度で返事を返す。

「私が許可します!」

「越権行為よ、葛城一尉!」

そして…

「エヴァは現行命令でホールド!その間にエントリープラグを排出、急いで!」

その指示に伴い、エヴァからプラグが排出されると、そこからミサトの声が流れる。

「そこの二人、乗って!早く!」

指示を受けた二人は、何が何だか分からないままにプラグに乗り込んだ。





「二人とも、次こんな事したらタダじゃすまないわよ!」

二人を乗せた後、使徒の一瞬の隙を見逃さずに、一気に接近してコアをナイフで突刺し、先程の戦いは辛くも勝ちを収めた。
そして、その後にケンスケとトウジは地獄の説教タイムに突入したのである。
そして、突入2時間目を向かえようやく説教タイムが終わろうとしていた。

「はい、もう…しません」

「ほんま、すんまへんでした」

「ミサトさん、もういいんじゃないですか?結果オーライって事で」

「結果オーライって…シンちゃんも意外とアバウトなのね。ま、いいわ。二人とも、もう今日は帰っていいわよ」

こうして、二人は説教タイムから解放されると、それぞれの家に帰っていった。

「さて、と。それじゃあ私達も帰りましょうか」

「はい、そうですね」

こうして、長い一日は無事に終わりを告げた。

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あとがき

どうも翔矢です。
第一話もやっぱり下手ですかね〜(^_^;)
これからも、精進しますんで見捨てずに読んで下さったらと思います。
では、ここらへんで

翔矢への感想や苦情はこちらまで



2006年12月05日 大幅に改正

新!あとがき

アスカの誕生日記念はこれねw
いやはや、なーんも思いつかないから、修正版を手早く仕上げました(笑
さて、しかし困った事にシンジ君!君はもう家出する理由無いよ!どうればいい!次は家出の話なんだ!
てことで、公開停止しちゃいます(ぇ