碇 シンジ 18歳、最初の日…






  月日が流れるのは驚くほどに早いものだ。

  使徒、人類の敵と呼ばれるものとの戦いからも4年が過ぎた。

  今の僕たち人類は驚くほど平和に暮らしている。

  サードインパクト、それが起きたことを知る人間は少ない。

  僕もその数少ない人間の一人だ。

  何人もの人間が消え、何人もの人間が帰ってきたサードインパクト。

  それは人々の記憶をも変えたものだった。

  父さんも、副指令も、ミサトさんも加持さんも帰ってこなかった。

  それ以外の人は何人も帰ってきた。

  意外なことにリツコさんは帰ってきた。

  リツコさん曰く、

  「ロジックじゃないのよ……」

  僕にはちんぷんかんぷんだ。

  まぁ、僕はアスカが帰ってきたことが何よりもうれしかった。

  「気持ち悪い」

  この言葉の後に彼女は一度LCLに還っていった。

  でも、彼女は帰ってきた。

  みんなからの伝言を受け取って…………

  今でもその言葉の意味を考えることがある。









        「生きろ」









  これの難しさを僕はあの半年で痛いほど理解した。

  でも、それを乗り越えるためにみんなは僕に伝えたかったんだと思う。

  さて、そろそろお姫様を起こしに行くとしよう……





  僕はゆっくりと扉を開いた。

  ベッドの中で布団をかぶり安らかな寝息を立てている金髪の女性。

  月日は僕を青年に少女を女性に変えた。

  「アスカ、おきて朝だよ……」

  体をゆすってやるが起きる気配はない。

  僕はしょうがないという風にため息をつくとアスカの耳元に口を近づける。

  「綾波と暮らそうかな……」

  「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

  アスカは勢いよく起き上がった。

  どういうわけだか知らないがリツコさんから教わったこの呪文はアスカに対して効果絶大だ。

  アスカは肩で息をして僕のほうに顔を向けた。

  「おはようアスカ。」

  そう言って僕が微笑むとアスカは息を整えてベッドから起き上がる。

  「おはようシンジ。」

  もはや朝の恒例行事ともいえる。

  時々悲しくなるのはこの関係がそのままなんじゃないかということいつまでもいつまでもこのまま。

  僕はアスカのことが好きなんだろう、いや、好きなんだ。

  だけど、僕は勇気がないからいつまでも告白もしないで一緒にいるだけ。

  シンジは考え事をしながらもリビングに戻り朝食をテーブルに並べていく。

  しばらくするとアスカが起きてきてイスに腰掛ける。

  「「いただきます。」」

  2人で座ると一緒に食事を始める。

  いつもそうだ、僕がアスカの顔を見るとアスカはすぐに顔をそらす。

  やっぱり僕のことが嫌いなのだろうか?

  「今日はあたし行くところがあるから……」

  アスカは食事を終えるとそういった。

  「……そう…」

  僕はできる限り興味なさげに言う。

  なぜかそう言ってしまう。この感情がなんなのか僕にはよく分からない。

  胸が締め付けられるような感覚、これがきっと恋心なんだといつの間にか納得してしまった。

  その恋する相手がアスカだということも……

  僕はソファに座りテレビをつける。

  しばらくするとアスカは着替えを終えて玄関に向かう。

  「夕飯までには帰ってくるから!」

  そう言ってアスカは家を出て行く。

  ただ一人だけになってしまった家の中で僕はすることもなくただソファにねっころがり天井を見上げる。

  「見慣れた天井だな……」

  4年と半を過ごしてきたこの家、もう一人(一匹?)の住人であったペンペンは一年前にいなくなった。

  今頃は天国でミサトさんや加持さんと仲良く暮らしているだろう。

  本来のご主人様のところに行くことができてきっとペンペンは喜んでいることだろう。

  僕は赤と青のしま模様のクッションを抱きしめた。

  時々押し寄せてくる孤独感

  一人でいることの辛さ、悲しさ……

  あの半年で知った死以上に恐怖を感じる孤独……

  「アスカ……一人にしないでよ……………アスカ…………」

  僕の涙はやわらかいクッションの生地の中に吸い込まれていった。



















  所変わってここはリツコの研究室



  「リツコ、例のものの準備はできてるの?」

  アスカは椅子に座りリツコと向き合っている。

  「大丈夫よ、何の問題もないわ。」

  そう言ってリツコは怪しげな笑みを浮かべる。

  アスカは力強く頷き立ち上がる。

  「ありがとう、リツコ!」

  そう言って部屋を出て行こうと扉の前に立った。

  「マヤたちにもありがとうって言っといて。」

  そう言ってアスカは部屋を出て行った。





  さらに所変わり洞木邸



  「あ、アスカ遅かったわね。」

  ボールを抱えエプロン姿の洞木ヒカリは入ってきたアスカに言った。

  「ごめんね。でニバカは?」

  「買出し、材料が足りなくなっちゃったのよ。」

  「悪いわね、ヒカリ。」

  アスカがそう言うとヒカリは苦笑した。

  「碇君とアスカのおかげでトウジと恋人になれたんだもん。私も2人のために協力したいのよ。」

  ヒカリはそう言ってウィンクする。

  「ありがとね。」

  アスカはそう言うとヒカリの横に立ち料理の手伝いを始めた。



















  アスカが家に帰ってきたのは深夜だった。

  ヒカリと共に料理をしていたらいつの間にか時間がたっていたのだ。

  「ただいまぁ〜」

  少し声を潜め部屋の中に入っていく。

  普段ならシンジも寝ているはずだというのに部屋の電気はつけられたままだった。

  「シンジ?」

  そぉ〜とリビングを覗き込むと誰もいない。

  「どうしたのかしら?」

  アスカは疑問に思いながらシンジの部屋へと歩を進める。

  ゆっくりとシンジの部屋(旧ミサトの部屋)のふすまを開く。

  「あれ?」

  布団の中にシンジの姿はない。

  疑問に思いながらアスカはふすまを閉めた。

  「もしかして私を探しに出かけたとか……」

  時計を見てみると2時を回っている。さすがに探しにいったとしても帰ってきているだろう。

  そもそも、探しに行く前にヒカリかトウジかケンスケ辺りに連絡しアスカの情報を得ようとするだろう。そうすれば自分はすぐ側にい るのだからわかるはずだ。

  「どうしたのかしら?」

  キッチンのほうに目を向けると鍋が置かれただけの状態で何も変化はないようだ。

  鍋の中身を確認するとシチューが入っている。

  テーブルの上には手紙が置かれていた形跡もない。

  「ほんとにどうしたのかしら?」

  アスカはカバンの中から携帯を取り出し短縮に登録されたシンジの番号に連絡する。

  『………………電源が入っていないか電波の…………』

  電源も入れていないの?

  アスカはじわじわと慌て始める。

  シンジの部屋を確認し着替えなどが減っていないかチェックを入れる。

  減っていない、遠出した可能性は低いだろう。

  靴がないことから外出したということは確かだろう。

  アスカはすぐさまネルフの保安部に連絡を入れた。







  「みつからない!?」

  電話片手に怒鳴るアスカ。

  朝になってもシンジは帰ってこない、保安部も血眼になって探しているがシンジが見つからないという。

  今日は6月6日、シンジの誕生日である。

  (誕生日の日ぐらい家にいなさいよ………)

  アスカは親指の爪をかみ落ち着かない様子で視線をせわしなく動かしている。

  「…………シンジィ……………………」

  心配のあまりアスカの瞳に涙が溜まっていく。

  不意に扉が開く音がした。

  「ただいま………」

  聞きなれた青年の声、シンジが帰ってきたのだ。

  アスカは勢いよく立ち上がると玄関に駆け出す。

  よく見慣れたシンジの顔を確認するとそのままの勢いで抱きつく。

  「あ、アスカ………どうしたの?」

  突然の出来事に対応に困ってしまうシンジ。

  「いいから黙ってなさい………」

  アスカはそう言ってシンジの胸に顔をうずめる。

  「心配した?」

  涙が溢れてきて声が出せない、アスカは頷くことしかできずにただ首を縦に振った。

  「ごめんね………」

  シンジを抱きしめるアスカの腕に力が込められる。

  「あ、あのぉ〜……」

  突然の声に慌てて振り返るシンジ、アスカはまったくの微動だにしない。

  シンジの視線の先に立っていたのはよく見知った友人、洞木 ヒカリその人だった。

  「ご、ごめんなさい、ドアが開いてたから………」

  ヒカリは顔を赤くし視線を泳がせる。

  まさかラブシーンに出くわすとは思ってもみなかったのだろう。

  「ほ、洞木さん!?」

  慌てて離そうとするシンジだがアスカの腕が解かれない。

  「ちょ、ちょっとアスカ……」

  顔を真っ赤にしたシンジはアスカに離すように言うがアスカは顔伏せたまま離そうとしない。

  「ちょっとアスカ、みんな待ってるのよ。」

  ヒカリの言葉にしぶしぶといった感じでアスカはゆっくりと手を離した。

  「洞木さん、待ってるってどうかしたの?」

  アスカから解放されたシンジはまだ少し赤い顔のままでヒカリに聞く。

  「あれ?聞いてないの?今日は碇君の誕生日だから誕生日パーティをするってアスカが言い出したんだけど…」

  シンジはアスカのほうに顔を向けるがアスカは何も言わない。

  「ほら、アスカ。ごめんなさいね碇君。」

  アスカは無言のまま歩き出した。

  シンジとヒカリもアスカのあとを追って歩き始めた。













  シンジの誕生日パーティはリツコの家で行われた。

  それなりの広さがあり、準備もやりやすかったからだ。

  参加者はアスカ筆頭にヒカリ、リツコ、トウジ、ケンスケ、マヤ、マコト、シゲル。

  それぞれがシンジに祝いの言葉を述べてプレゼントを渡していく。

  トウジとケンスケとヒカリは三人でオーケストラコンサートのチケット。意外と奮発してくれたようだ。

  シゲル、マコトのオペレーターコンビは新品のチェロ。しかもだいぶ高価なものだ。

  リツコとマヤのプレゼント……

  「くあっ!」

  聞き覚えのある声にシンジはリツコの持ったぬいぐるみのようなものをみる。

  「ぺ、ペンペン!?」

  「ペンペンの精子と別のペンギンの卵子で作ったペンペンジュニアよ。」

  リツコは優しく微笑みながら言った。

  シンジはリツコからペンペンJrを受け取り優しく抱きしめる。

  「ありがとうございます……」

  少し涙声になってしまう。

  「ほら、アスカ……」

  ヒカリに後押しされてアスカが前に出る。

  「………誕生日……おめでとう……」

  そう言うアスカは何ももっていない。

  「ありがとう……」

  プレゼントがないことなど関係がないようにシンジはやわらかい笑みを浮かべた。



  シンジの誕生日パーティが終わりそれぞれが帰路にたつ。

  シンジはアスカと共にペンペンJrを抱きしめながら家に帰った。





  家に着くと何も言わずにアスカは自分の部屋に入っていく。

  シンジは何も言わず、ペンペンの家をペンペンJrに教える。

  ペンペン同様にペンペンJrはそうとう知能指数が高いようだ。シンジの言葉を理解し返事を返している。

  シンジはアスカの部屋の前に立った。

  一度深呼吸をすると扉を叩く。

  「アスカ、話があるんだけどいい?」

  返事はない。しかしシンジは続けていく。

  「昨日は急にいなくなったりしてごめん。心配かけちゃったみたいだね……」

  扉が勢いよく開かれてアスカが顔を出す。

  「心配かけたじゃないわよ!あたしがどれだけ……どれだけ………」

  涙が溢れて声がうまくでない。

  アスカは青い目にためた涙をぬぐおうともせずにシンジを見る。

  「ごめんね……でね……」

  シンジはポケットの中から折りたたまれた紙を取り出す。

  「なによこれ……」

  アスカは紙を受け取るとゆっくりと開いていく。

  『婚姻届』そう記された一枚の紙切れ。

  「!」

  アスカの顔が驚きに染まるのとほぼ同時に涙が溢れてくる。

  「…………なんで、あんたがこれ持ってるのよ……」

  涙声のアスカは涙をぬぐいながら言う。

  「え?なんでって……」

  「これは私の机の中に入ってたはずでしょ。まさか、勝手に入ったの?」

  「へ?」

  アスカは自分の机の引き出しを開きもう一枚、婚姻届とかかれた紙があることに気付く。

  「………………し、シンジ?」

  「な、なに?」

  「これ、あんたが貰ってきたの?」

  シンジは顔を赤くしながらもうなづく。

  「こ、この……この………このバカシンジ!」

  そう言ってアスカはシンジの胸の中に飛び込む。

  このとき、午後11時58分。

  碇シンジ18歳最初の日、最後の出来事だった。

















  2025年。

  碇シンジ18歳最初の日から6年が過ぎた。

  「……シンジ……」

  アスカは呟くようにいいながら愛する人の肩に自分の頭を乗せる。

  「……アスカ……」

  シンジは呟きながら愛する人の髪の毛を撫でる。

  「…………幸せだよね……」

  アスカがシンジの目を見ながら言う。

  シンジは何も言わずにただ頷く。

  そして、優しく微笑む。

  「ママ……」

  扉が開かれペンペンJrと一緒に5歳くらいの少女が入ってくる。

  「どうしたのハルカ?」

  「おなかすいた……」

  そう言うと少女の腹からきゅ〜と可愛い音がなる。

  「はいはい、じゃあご飯にしようね。」

  そういいながらアスカは立ち上がりキッチンへと入っていく。

  シンジも立ち上がり愛娘と最愛の人の姿を見ると微笑みながらベランダに出る。

  季節が完全に戻った日本。しかし、今日は10年前と同じように太陽が降り注ぐ。

  「ゲンちゃーん!」

  不意に聞こえてきた声に下を見ると、幼稚園児くらいの少年少女が集まっている。

  「なぁにユイちゃん。」

  「あそぼ!」

  「だめ、ゲンちゃんは私と遊ぶの!」

  「意地悪しないでよ、ナオコちゃん。」

  「俺も一緒に遊ぶ!」

  「加持!あんたは私と遊ぶのよ!」

  「そりゃないよミサト〜。」

  シンジは下でくりひろげられる少年少女のことを微笑みながらみている。

  不意に吹いた涼しめの風に青く、果てない空を見上げる。



















     父さん、母さん……みんな…………僕は……































生きます……























 あとがき


ふと沸いたアイディアを利用しての小説でした。
うぅ〜ん……「チェロの音色にのせて」とだいぶかぶっている……
もう少し何とかしたかったんですけどね……
さて、お気づきでしょうか?
シンジの誕生日パーティにレイがいない!
いや、私も誤字チェックをしている最中(今さっき)気付きました。書き足すのもめんどくさいのでやめちゃったんですけどね(笑)
では、またなにかご縁がありましたら
                                           卯月乃芹




コメント

投稿ありがとうございます。
しかしシンジ君。君すごいぞ・・・・・・
>>「綾波と暮らそうかな……」 「だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
これで気付けえぇぇぇぇぇぇぇ
ていうか、なんでこやつは告白の段階すっ飛ばして婚約届け?!
てか、アスカもかw
このアスカ、ラストの婚約届けの場所で、めちゃへっぽこ。
ていうか、全体的にかわいかったっすね。
かなり、甘い感じ^^
でも、その中でも戻って来なかった人がいたり、ペンペンは死んでたり、でもペン2Jrがいたり、未来の子供の名前。
そして、ラストシーンの一言。生きることのテーマがひしひし伝わってきますね。
素晴らしい作品の投稿ありがとうございましたm(__)m

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